トップページ > 『子どもの成長に積極的に関わっていく』

『子どもの成長に積極的に関わっていく』

1日密着レポート発達領域

作業療法士とはどのような仕事なのか?作業療法士の1日に密着して、その仕事の様子や携わる人の思いや熱意、作業療法士の喜びや苦悩を探ってもらう、「作業療法士の1日密着レポート」。

今回は、身体や心の発達にアンバランスのあるこどもたちや、生まれつきハンディキャップを持ったこどもに対し、運動や道具を使った遊びを通して、その子の日常生活の過ごしやすさ、コミュニケーションの楽しさをご家族とともに見つけたり、学校や園で困らないよう、その子にあった発達成長を促していく発達分野の作業療法士に1日密着をおこないました。


中村さんプロフィール写真鹿児島県こども総合療育センター 
診療部 療育指導課

中村 侑司さん

profile

作業療法士として、精神分野を3年担当したのち、鹿児島県こども総合療育センターで発達分野の作業療法士として5年目を迎える。

趣味はバイク。現在2児のパパで、子育てにも奮闘中。


 

中村さん出勤

中村さん-出勤風景朝8時20分。

小雨の降るなか鹿児島市桜ケ丘にある、鹿児島県こども総合療育センターに今回の1日密着取材の対象者、中村さんが姿を現した。

この日は、3月の中旬。
南国鹿児島といえど、朝夕はまだ寒さが残る。

発達分野の作業療法士の1日を取材ということで、今日1日どんな姿を垣間見ることができるのだろう。

 

ミーティング

全体ミーティングここ、鹿児島県こども総合療育センターでは、全体ミーティングから1日が幕を開ける。

センターでは子供たちを作業療法士(OT)だけでなく、理学療法士(PT)・言語聴覚士(ST)・保育士、そして小児科医と多くのスタッフが連携を取り合って診療にあたっている。

このミーティングでは当日の診療に関わるスケジューリングや、それに伴う業務の確認、引き継ぎが行われる。

さらに全体ミーティングが終了すると、今度は担当部門ごとのミーティングが実施される。
全体ミーティングの内容を踏まえ、各スタッフの1日のタイムスケジュールの確認等が行われ、1日の流れを決める大切なミーティングとなっている。

 

デスクワーク

中村さんデスクワーク中村さんはこの日、午前中のデスクワークから業務スタート。

鹿児島県こども総合療育センターでは、来院されるお子さんの日程にあわせてスケジューリングがされている。
ただし、子供の体調や、保護者の方の急な予定等で必ずしもスケジュール通りにいかないこともあるという。

 

作業療法士の仕事と聴くと、1日中リハビリテーションの業務にあたっているというところが正直なイメージだったが、仕事内容はそれだけではない。

訓練プログラム検討作業療法士の視点から患者さんの筋力や種々の感覚に対する反応、体全体を誓ったダイナミックな運動、手先を使った細かな運動の状態、言葉の理解など状態を確認し、こどもの得意なこと、苦手なことを推測、判定する『評価』と呼ばれる業務。

患者さんと作業療法士が1対1で、日常生活能力(食事や鉛筆、はさみ等の文具の使い方、トイレ、買い物に行く等)の改善や、社会生活能力(コミュニケーション能力や日常の)の改善、運動機能及び精神機能を維持・改善するために、軽スポーツや物品・道具を使った遊びを通じて関わりをもっていく個別訓練。

それらに付随する報告書の作成や、今後の訓練プログラムの検討。

そして発達分野の仕事で特徴的なものとして、こどもたちの就学・進学・卒業にあわせ保育施設や、教育機関への情報共有用の資料の作成などのデスクワークも重要な業務のひとつとなっている。

時には1日のなかで個別訓練からデスクワークまで、こども1人当たりに費やす時間が6時間近くになることもあるという。

また、このデスクワークの時間の合間に患者さんひとりひとりについて、スタッフ間で情報共有も行われる。
この日は中村さんが担当をしているお子さんについて、担当理学療法士から身体に見られる傷について連絡があった。
傷や身体の張りなどの変化に加え、ご家族へのアプローチの仕方についての相談など非常にきめ細かく患者さんを診ていることに驚きを感じた。

 

個別訓練準備

中村さん個別訓練準備デスクワークに一旦区切りをつけ、中村さんが向かったのは訓練室。

午後に予定をしている個別訓練の準備を行うためだ。
今日の午後、中村さんが担当予定となっている個別訓練は3名。
こどもたちの症状や、成長にマッチした訓練計画に沿って準備を進めていく。

準備を進める中村さんに、作業療法士を目指したきっかけを聞いてみた。

 

「もともとバイオテクノロジー等の生物工学分野に興味があったんです。
ただ、大学受験を控えた時期に、『これからは手に職があったほうが良いのではないか。』人の役に立つことが出来るということが、もっと肌で実感できる仕事がないか?という気持ちの変化がありました。
その中で、母が看護師をしていたこともあり、作業療法士を知るきっかけとなったんです。」

「発達分野を担当するようになって、担当したお子さんのできることがどんどん増えていったり、ありがとうと言われたりすることが本当にやりがいにつながっています。
自分自身に子供が生まれてからは、その思いが特に強く感じるようになりました。」

照れくさそうではありながらも、その話し方や表情からはこの仕事に対する熱意が感じられた瞬間だった。

 

ランチタイム

中村さんランチタイム個別訓練の準備を終え、ここでランチタイム。

一緒に働く仲間の作業療法士のメンバーから、

「今日のお弁当は何だろうね?」

奥さん手作りのお弁当をのぞきこまれる一コマも。

因みにこの日のお弁当は生姜焼き。

IMG_7642_R午後の個別訓練に向けて、しっかりと食べてスタミナをつける。

スタッフと談笑しながら過ごすこの時間は、忙しい1日の中でホッと一息つける瞬間のようだ。

 

症例報告会

中村さん症例報告会参加この日はお昼休みを使い、理学療法士を目指す実習生による症例報告会が行われた。

10週間という長い実習期間の終了直前ということで、実習期間中に担当をした子どもの症状や訓練を通じての発達状況などを、先輩たちの前で報告を行っていく。

中村さんもこの症例報告会に参加。

理学療法士と作業療法士。

それぞれの役割は違うが同じリハビリテーションという分野で、それぞれの違った視点や経験から、実習生に対しアドバイスを行ったり、時には質問を投げかけることで実習生の気づきを促したりと、実習生にとっても非常に勉強になったようだ。

 

中村さん個別訓練1例目

中村さん個別訓練風景1午後からはいよいよ個別訓練が始まる。

1人目は、ダウン症の男の子。

足の裏面の感覚が特に敏感なため、足の裏に触れる物や、床材の感触で驚いてしまうこともあり、立ち上がったり、歩いたりすることが苦手なのだという。

「立つ・歩く」ことが出来るようになると、その子の見る世界が変化する。低かった視点が高くなり、見えなかったものが見えるようになる。すると、「あれは何だろう?」、「あの玩具で遊んでみたい。」等の好奇心につながる。

その子が得意な部分、苦手な部分を評価し、発達課題を十分に考慮しながら遊びの動作や生活動作を取り入れ、成長発達を援助していくのが発達分野の作業療法の大きなポイントになる。

「子どもたちの生活をより良いものにする。より良いものにしてもらうためのお手伝いをする。発達分野の場合、特にそれを意識・実感することが多い」と中村さんは言う。

 

中村さん個別訓練2人目

中村さん個別訓練風景2次の個別訓練は、自閉症スペクトラムの男の子。

とても、明るく賑やかな子という印象を受け、正直、どんな症状があるのか全く分からなかった。
身体の使い方、気持ちの切り替え、ことばの理解が苦手ということで中村さんとは1年を超える期間、一緒に訓練を行ってきた。

出会った当初は、上手にできることも多かったが、「上手くできるかな」「できなかったらどうしよう」と不安な気持ちが大きかった。その分失敗を嫌がることも多かった。様々な遊びを提案してみても、消極的な取り組みだったという。
一見、何も問題がないようなこどもでも、発達のアンバランスさから外見上では気づかれない生活のしづらさがあるようだった。

訓練を通じて、今では挑戦することに対してもポジティブになってきており、4月から小学校に入学するという。
中村さんとの個別訓練はこの日が最後。

中村さん個別訓練風景3こどもと一緒に全力で駆け回り、笑いあい、汗だくになりながら訓練に取り組む中村さんの表情を見ていると、これまでの訓練のことを思い出しているのだろうか。
表情はにこやかながらも、どこか寂しげな雰囲気を感じてしまう瞬間もあった。

「先生とOTは今日が最後になります。
これからも小学校で友達をいっぱい作って、勉強に運動に一生懸命頑張ってね。ありがとう。」

と声をかけ、最後の個別訓練を終了。

「一緒に訓練をやってきて、出来ることがひとつずつ増え、自信をつけていく。
こどもたちが成長していく姿を間近で見ていて、やがて自分のもとから卒業していく。
とても喜ばしい、嬉しいことなんですが、やっぱり終了するときは、寂しい気持ちがあります。」

少しずつ、一歩ずつ、思いを込めて行ってきた個別訓練。
中村さんの思いはきっと、この子の元にも届いているのではないだろうか。

 

中村さん個別訓練3人目

中村さん個別訓練風景4この日最後の個別訓練は、脳性麻痺の女の子。
にこにこと明るい笑顔がとても印象的だ。
中村さんとは2年ほど一緒に訓練に取り組んできたという。

個別訓練がスタートすると、まず足の張り具合や感覚などをこどもの様子を確認しながら、訓練に向けたウォーミングアップを兼ねてストレッチをしていく。

脳性麻痺では、麻痺、筋肉の緊張の異常、運動発達の遅れなどが代表的な症状としてあげられる。
この個別訓練では、歩行動作からスタートし、三輪車を活用したトレーニングなど、特に下肢の運動機能の発達促進を目的としたトレーニングを中心に訓練に取り組んでいく。

「今日はいつもよりご機嫌だね。普段以上に頑張るじゃん!取材のカメラさんが入っているからかな?」

と冗談を交えながら訓練に取り組むことができるのも、2年間という期間をかけて、中村さんと、この子と、そしてご家族の方と信頼関係を築いてきたからこそだからではないかと感じた。

 

報告書作成

中村さん後片付け個別訓練が終了したのち、訓練で使用した遊具や運動器具などの後片付けに入る。

センターでは、各訓練室を、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、保育士など様々なスタッフや、こども達が使用するので、毎日、トランポリンなどの大型の器具も片付けを行う。

片付けが終わると再びデスクワークへと戻る。

17時を過ぎ、定時を迎え、だんだんとスタッフが退勤していくなか、個別訓練の報告書の作成や、保育施設・教育機関への情報提供資料の作成、次回以降の個別訓練の実施計画の検討など黙々とパソコンと向き合う。

個別訓練の合間に、中村さんの発達分野の作業療法についての考えを聞く機会があった。

中村さん残業風景「こどもは成長して肉体的にもどんどん大きくなっていきます。
しかし、こどもたちの両親はそれと反比例するかのように、歳をとっていきます。
年齢やライフステージ、状態を考慮して、少しずつ自立を促していくことを日々、忘れないようにしています。

出来ないから・苦手だからとみずごしてしまっていると、こどもはグングン成長していきます。どう工夫をしたらできるかな?「自分でできるのはここまでなんだね。じゃあ、ここからは少しずつ練習していこう」といっしょに取り組んでいきます。そのように促せるためには、作業を細かく見る力が作業療法士には必要とされます。集中して、課題に取り組める時間を確保したい場合、あえて、保護者様に訓練室の外で待っていただくこともあります。

発達分野の作業療法は、こどもの成長過程に積極的に関わっていく必要がある仕事です。
そして、こどもたちが笑顔でいられること、自分自身で考え、チャレンジしようとする瞬間に立ち会えることが最大の喜びだと僕は感じています。
ただし、その一方でこどもたちの成長に積極的に関わっていくということは、その子自身だけではなく、その子の両親、家族を含め多くの方に対しての責任も背負いながら携わっているという意識を常に忘れないようにしなければならないと僕は考えています。」

「喜び」と「責任」そのふたつを常に肌で感じているからこそ、こうして遅くまで仕事に向き合っていくことができるではないかと、ふと考えさせられた。

 

中村さん退勤

デスクワークを終えた中村さんに時間をもらい、いくつか質問をさせてもらった。

Q:「作業療法の仕事をしていく中で自分自身に心がけていることは何かありますか?」

中村さんイメージカット1「笑顔です。
それは自分自身が笑顔でいるということもそうですが、訓練に来てくれたこどもたち、そして保護者の方が、笑顔になって『楽しい時間だった』と思ってもらえるようにすることでしょうか。
作業療法士の仕事は医療関係ではありますが、結局、サービス業だと思うんです。
そう考えると、こどもたちや保護者の方への接遇マナーは意識しなければなりませんし、その基本は笑顔だと考えています。」

 

Q:「実際に作業療法士になる前の作業療法士のイメージはありましたか?」

中村さんイメージカット2「リハビリの仕事というざっくりとしたイメージでしたし、こどもたちと絵を描いたり、もっと静かに遊ぶと思っていましたから、まさかここまでガッツリ運動をしたりすることなど考えていませんでしたね(笑)。
ただ、こどもたちが訓練の終了時間になっても『帰りたくない!』と駄々をこねられたりすると、嬉しくて疲れも忘れてしまいます。
あと、先程の質問とも関連していますが、サービスを提供する側の人間が『ありがとうございます』と言うべきなんですが、お客さん(患者さん)からも『ありがとう』と言われる、本当に人対人の仕事だなと感じてはいました。」

 

Q:「これまで作業療法士のお仕事をされてきた中で、一番悔しかったことや辛かったことは何ですか?」

「お子さんに、訓練中に怪我をさせてしまったことです。これは辛かったですね。」

Q:「最後に、これから作業療法士を目指そうと考えている方へのメッセージをお願いします」

「上手く表現が出来ないのですが、理学療法士の方の仕事は家族に例えると父親で、作業療法士の仕事は母親と言ったイメージなんですよ。
色でいうと紫とピンクの中間にあるような仕事だと思うんです。
とても柔らかくて温もりがあるというか。
凄く温かみのある仕事それが作業療法士だと思います。
人の生活に寄り添いながら行う仕事なので、その分苦労も多いですが、それ以上にやりがいもありますよ。」

 

中村さん退勤風景1日取材をさせてもらい、患者さんの生活に寄り添う仕事という部分を本当によく実感できた取材となった。

こども達の成長過程に積極的に関わっていくなかで得られる、喜び、やりがい、そして難しさや苦労。

もちろん、たった1度の取材で全てを知ることができるわけではないが、何よりも、現場に立たれている中村さんをはじめスタッフの皆さんの、熱意と作業療法に取り組まれる姿勢を直接感じることができた。

中村さん、1日お疲れ様でした。

明日からのお仕事も頑張ってください!!応援しています。