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『一緒に考えて、一緒に進んで行ける人、それが作業療法士』

1日密着レポート精神分野

作業療法士とはどのような仕事なのか?作業療法士の1日に密着して、その仕事の様子や携わる人の思いや熱意、作業療法士の喜びや苦悩を探ってもらう、「作業療法士の1日密着レポート」。

今回は、患者さんの心の声に耳を傾け、患者さん自身が主体的に、今後自分がどういう生活を送りたいのかということを考え、行動していく、それを患者さんと同じ目線で考え、悩み解決策を一緒になって模索していく精神分野の作業療法士に1日密着をおこないました。


山口さんプロフィール医療法人 赤崎会 赤崎病院

山口 理恵さん

profile

作業療法士として、赤崎病院で精神分野を担当。

関西の出身。大阪の学校を卒業後、京都にある病院で作業療法士のキャリアをスタートさせる。

今年で作業療法士になって15年目を迎える。


 

山口さんタイムスケジュール出勤

鹿児島県薩摩半島の南端にある指宿市。

温泉の街として知られるこの町にある、医療法人赤崎会赤崎病院が今回の舞台だ。

時刻は8時10分。

朝とはいえ、夏のこの時期、照りつける日差しはジリジリと厳しく、ごく僅かな間でも汗が噴き出してくる感覚がある。

山口さん出勤

そんななか姿を現したのは、今回の主人公、作業療法士の山口理恵さん。

今回は精神分野の作業療法ということで、他の分野とはまた違った発見や、作業療法の面白さ、そして厳しさを垣間見ることが出来るかもしれない。

 

 

山口さんタイムスケジュール申し送り

ミーティング風景

赤崎病院での1日は、スタッフ間の申し送りからスタートする。

医師、看護師、理学療法士、作業療法士等、各分野のスタッフの代表者が集まり、夜勤を担当したスタッフから患者さんの様子をヒアリングしたり全体スケジュール等の確認を行う。

全体の申し送りが終わると、次は作業療法士間での申し送りがスタート。

全体ミーティングの内容を全作業療法士へ報告し、作業療法士の間でも共有を行っていく。
また、各作業療法士から前日以前の患者さんの様子を、精神面と体力面のふたつの面からみて気が付いたことなどを事細かに報告していく。

作業療法室ミーティングバイタルや服用している薬の情報、ナースコールの間隔・回数などといった、素人目にみると作業療法とは直接的に関係なさそうな情報も非常にきめ細かに報告されていることには驚いた。

さらに各スタッフの1日のスケジュールに加え、この日は金曜日ということもあり、翌週以降の各スタッフのスケジュールの確認や看護師スタッフとの申し送りも行われた。

前回の取材をさせていただいた鹿児島県こども総合療育センターでもそうであったが、各部門のスタッフの方が本当に様々な点に、目配り気配りを働かせ患者さんの様子をきめ細かく把握していることには、とても驚かされる。

 

山口さんタイムスケジュール個人OT

山口さん患者さん送迎1申し送りが終わり山口さんが向かったところは患者さんの病棟。
午前中に治療活動を行う患者さんを迎えにいったのだ。

赤崎病院では、現在3棟の病棟があり、病床数は約150床。
精神分野の特徴のひとつなのだろうか。
自傷や他傷、徘徊などの恐れがある患者さんのための閉鎖病棟もあるという。

1人1人の患者さんに、「○○さん今日も頑張りましょう」、「素敵なイヤリングですね」
と優しく声をかけながら各病棟を回り、作業療法室(OT室)へと患者さんを誘導していく。

個人OT1精神分野の作業療法の特徴は、マンツーマンでの治療活動を行うというかたちではなく、複数人の患者さんを数名の作業療法士で協力しながらみていく治療活動になっている。
この日は、19名の患者さんを3名の作業療法士で担当することになった。

患者さんは作業療法室に到着すると、手芸や読書、塗り絵、ミシン、音楽鑑賞、運動トレーニングなど、それぞれの治療活動をスタートしていく。
これらの治療活動を通じて作業に集中する力を向上させたり、ひとつのことをやり切る力をつけたりと日常の作業を通じて身につけていくのだ。

この治療活動で行われる作業療法士の役目は、患者さんの作業の援助だ。
もちろん、ただ手伝いをするということでは無い。
患者さんの表情や、言葉、個人毎の治療活動の進み具合など様々な要素に気を配り、患者さんの感情の揺らぎや変化がないかを確認していく。

散歩援助赤崎病院での作業療法プログラムは非常に幅が広い。
先に挙げたもの以外にも将棋、麻雀、懐メロを聴きながらお茶や会話を楽しむ「懐メロ喫茶」。
また病院の隣には畑もあり、花や野菜を育てる園芸作業なども作業療法の一環として行うという。

山口さんはまず、自宅に帰ることを目標にされている患者さんの散歩の援助に向かうことになった。

病院では普段、車いすでの生活をしているという患者さんだが、立ち上がったり、しゃがんだり、歩くといった動作を通して運動機能の維持・向上を図っていく。

また、外に出て自然の風を肌で感じたり、花や動物と触れ合うことで精神的な効果も期待されるのではないかと感じる一面も垣間見られた。

散歩の援助から作業療法室に戻ると、次は別の患者さんのもとへいき、一緒に作業に取り組む。
それぞれの患者さんと言葉を交わしながら、治療活動に廻る姿は優しさと温かさを感じられる。
午前中の治療活動は2時間だが、患者さんたちから「山口先生」「山口先生、こっちもお願い」と声がやむことがなかった。

午前中の治療活動が終了するころ、ひとつ気になったことがあった。
患者さんが皆、1枚のカードを山口さんたちに渡し、印鑑を押してもらっていたのだ。

個人OT2「私たちが行っている作業療法は、患者さん自身の『成功体験』をいかに増やしていけるかということを念頭に置いています。
患者さん1人1人が作業療法士や医師の先生と相談し、作業療法を通じて向上させていきたい目標を設定し、それから治療活動に取り組むようにしています。

設定した目標は1枚のカードに書き出し、患者さんが挫けそうになったとき、自信を無くしてしまいそうなときに、自分で目標を記入したカードを見返し、過去の治療活動への取り組み状況を振り返れるようにしています。

自分で振り返りをすることで、『これだけ頑張ってこれたんだ』と自信を取り戻したり、再び積極的に取り組めるようにしています。」

ただ単純に作業を行っていくということではなく、患者さん自身に主体的に治療活動に取り組んでもらう。
自分自身の成長を感じてもらうというところも治療活動の効果の大きな要素のひとつになっているのかもしれない。

 

山口さんタイムスケジュールカルテ作成

個人OT後のカルテ整理午前中の治療活動が終わり患者さんを病棟まで送り届けると再び作業療法室に戻り、後片付けと午前中の治療活動を踏まえたカルテの記入。
そして、午後のプログラムについての打ち合わせと準備を進めていく。

カルテ記入の際には、担当した他のスタッフとの患者さんの様子の共有も忘れない。患者さんの視点に立ってイメージをしてみると、自分のことをみてくれているスタッフの方が1人ではなく、3名の方にみてもらうことが出来るというのは大きな安心感につながっているかもしれない。
複数のスタッフでみることで、新しく見えてくる部分や気づくことが出来るだろう。

しかしスタッフ側の視点に立った際、19名の患者さんを3名で診ていくという部分は、人数的な不安を感じることは無いのだろうか。
特にこの日、山口さんは散歩の介援助にも出ており、その間は18名の患者さんを2人でみていくことになる。

この疑問は山口さんの話を伺って解消した。

カルテ記入「全体でみると19名ですが、実はそれぞれの患者さんの担当作業療法士というのは決まっているんです。
そして、各患者さんに個人での治療活動では何をするというプログラムが組まれています。
そのプログラムの内容をスタッフ間で共有しているので、人数による難しさを感じることはほとんどないです。

自分が不在の時には、どういった声掛けをして欲しいといった部分も共有してあります。
ごくまれに、『私だけを見て、待たせないで』という方もいらっしゃいますが、この治療構造上、ある程度自分でやりたいこと、目標を本人と相談して決めているので、『あなたはずっと傍についてやっていかなくてもできる段階まで来ているなんだよ。』『もし、それが出来ないということであれば、まだ個人での治療活動をする段階ではないのかもしれないね』ということになっていきます。

実はこの個人OTとは別に、他のプログラムでひとつの作業をしたり、ひとつの作品を作ったりといった形式の治療活動があります。
個人での治療活動がなかなか上手くいかないという方には、そちらの治療活動に参加してもらっています。」

綿密な情報共有と患者さんの様子を見極めたプログラム構成をしていくことで、サポートする体制が整っているということに驚きを感じた。

 

山口さんタイムスケジュールカルテ作成

ランチタイム後片付け、カルテ記入を終えてここでランチタイム。

お弁当のお話から、話題はタニタ食堂のメニューについて。

さらに学生時代の話題や、女性ならでは、化粧品の話題など和気あいあいとした雰囲気のなかで、楽しみながらのランチタイム。

また、このランチタイムも有効活用!

実習生として来ていた学生さんから預かったレポートについてのアドバイスや、患者さんへの目の配り方など丁寧に教えていく。

ランチタイム4実習生も現場の生の声を聴くことができるとあって熱心に山口さんの話に耳を傾ける。

今回、勉強に来ている実習生と同じように、山口さんや先輩作業療法士の方も実習を通じての気づきや、戸惑い、やりがいや難しさを感じてきたのだろう。
実習生の気持ちも、きっと良くわかるのではないだろうか。

 

山口さんタイムスケジュール脳活

脳活トレーニング1

午後は、認知症予防を目的としてスタートしたプログラム「脳活トレーニング」。
50代~70代の認知症の診断まではいかないものの、最近物忘れが・・・という患者さんを対象に、7月から取り組みをスタートした。
症状が出てからではなく、敢えて予防とすることで患者さん自身も「よし、やってみようかな」と意識が変化するという。

まずは個人戦のパズルゲーム。決められた順番を覚え、迷路をクリアしていくというもの。
パズルゲームが終わると、次は参加者全員での合唱。
「こんなことばかりしていると、いつか知らぬ間に呆けてしまいますよ」ということを戒めとして歌詞にした歌で、歌いながら思わず笑ってしまう場面も。

その後は、参加者をチーム分けしてグループワークを行ったり、ハンドベルの演奏に挑戦したりと、楽しみながら認知症の予防に繋げていくというプログラムが続いた。

『脳活』と聞くと、計算問題や熟語の虫食い問題などのようにとにかく考えるトレーニングをするのかと思っていたが、頭と同時に体を動かし、敢えて難しい要素なども取り入れるなど、多く種類があることに驚いた。

脳活トレーニング2

また、午前中に行われた個人毎の治療活動とは異なり、この脳活トレーニングには作業療法士も参加者となり患者さんと一緒に楽しむ、常に笑いありのプログラムになっていた。

プログラムも敢えて、週替わりで患者さんのスピーチからスタートし、最後の締めくくりも患者さんに担当してもらう。患者さんに難しいことに『挑戦』してしてもらい『達成』することで患者さん自身に困難を乗り越えて達成できたということを、実体験として感じて欲しいからだという。

作業療法は、ひとつの作業を黙々とというイメージが私自身未だに払拭できないでいるので、とても以外に感じた。

精神分野では、少しの感情の揺らぎが患者さん自身に大きく影響することもあるという。
実際この日スピーチを担当した患者さんも、数日前は「私、上手にできる自信がない」「やっぱりスピーチを担当するのもうやりたくない」といった言葉を聴いたこともあったという。

そんな患者さんが、終了後にニコニコと晴れやかな笑顔で、「私にもちゃんとできた!」と山口さんと喜びあっている様子は、とても印象に残るものだった。

 

山口さんタイムスケジュール会議出席

赤崎病院会議風景脳活トレーニングを終了後、この日は会議の予定があり、すぐさま会議室へ。
まさに分刻みのスケジュールとなっておりハードな1日だ。

院長先生、医師の先生、看護師、調理員など各部門のスタッフが集まる会議に出席。
この日の会議は今年で50周年を迎える病院の記念式典についての打ち合わせ。
会議そのものは、冗談も交えながらの和やか雰囲気で進んでいく。

しかしイベントをひとつするにしても、入院患者さんの食事のメニューやスケジュール、もちろん、病院としての機能をストップするわけにはいかないので、各分野のスタッフのシフトの調整やそれによって必要になってくる対応策の検討等も行われる。

作業療法士という仕事もこなす一方で、病院のスタッフのひとりとしての仕事もこなしていかなければならない。
患者さんの治療に各スタッフが協力してあたるように、病院の運営についても各スタッフがそれぞれが重要なファクターとなっているのだ。
作業療法士という職業である一方、その病院に所属する職員でもあるということを、はたと気づかされた瞬間であった。

 

山口さんタイムスケジュール翌日の準備

翌日の準備

会議が終了すると再び作業療法室に戻り、他のスタッフのと翌日の準備を行っていく。
この日は、翌日に入院患者さんのご家族が病院を訪問する、家族会が予定されておりその会場設営だ。
会場設営を終え自分のデスクに戻ってきた時には、18時近くとなっていた。

ここからデスクワークに入りカルテの整理や今日の治療活動で気が付いた患者さんの様子のフィードバック、翌日のスケジュールの確認などを行っていく。
ここで作成されたカルテなどの記録やプログラムの検討資料などが、スタッフ間の情報共有の材料となるなど、発達分野の取材のなかでも感じたが、このデスクワークも実は非常に重要な仕事のひとつになっていると思う。

1日取材をさせてもらうなかで、とても意外だったことがひとつある。

それは、「精神分野」、特に「精神」という言葉のイメージに捉われ過ぎてしまい、治療活動自体も、カウンセリングのような要素が強いだろうなと思っていたのだ。
しかし、取材をさせてもらうと、患者さんも作業療法士の方も体を動かす場面というのが非常に多いと感じたことだ。

そのことについて山口さんはこう教えてくれた。

翌日の準備2「現在の精神科は、多様化していると言われています。
精神科病院に通われて長期入院となった方の中には、両親が既に他界されてしまっている方や、退院していざ帰ろうと思っても、かつては偏見などもあったのか戻ってこられても面倒を見ることが出来ないなどを理由に、帰る場所がない方もいらっしゃったようです。
そうして入院が長期化することで、体が衰えていき、歩くことが困難になったり、寝たきりの生活になってしまったり、拘縮になりそうになっているので診てくださいといった声があると、治療活動にあたるのは自然な流れだと思います。

もし、精神分野の作業療法士や精神科に携わるお仕事を目標とされている学生さんに、伝えるとするなら、精神科の勉強だけではなく様々な分野から勉強をすることが大事だと伝えたいですね。」

ついつい専門の分野があると聞いていると、どうしてもその分野についてだけに目がいきがちになってしまうが、各分野の専門であるという以前に大前提として作業療法の定義を再認識させられると同時に、幅広い視野持つ必要性と行動力、そして何より常に患者さんのことを第一目線に考えるという姿勢を感じさせられた。

 

山口さんタイムスケジュール退勤

デスクワークを終えた山口さんに、1日取材をさせていただいた中でいくつか質問をさせてもらった。

Q「なぜ精神分野の作業療法士を目指すことに?」

山口さんインタビュー2「もともと、人の支えになれる仕事がしたいとずっと思っていました。
その中で理学療法士や身体障がいの分野を目標にしていましたが、2年生の時に行った2週間の病院の実習のなかで、身障分野と精神分野ふたつの実習に行くというカリキュラムだったんです。
それで精神分野の実習がすごく楽しかったんです。

『なんでその作業をしているのか考えてごらん?』とか、『患者さんとどういうかかわり方をしているんだろう』とか、実習時に先生に声をかけてもらい、深く考えることで「この患者さんは、これがしたかったから、あんなことをしていたのか」とか考えに考えた結果、目の前がスッと開けていく感じがこれまでにない体験で、とても面白かったんです。
それから興味を持ちました。

その後に行われた別の実習の実習先で、凄く落ち込んでしまったことがありました。「私ってなにも出来ないんだ」「私のこんなところを直さないといけない」とか悪いところばかりに目が行くようになってしまったんです。
6週間の長期実習の先生に『お前はそのままでいいんだ。悪いと感じるところもお前自身なんだからそれも含めて、そのままのお前を認めろ』と言われて泣いてしまったのを覚えています。
その先生に自分が作業療法をしてもらったような感じですね(笑)

たぶん先生は、自分はこんなところがあるんだということを認めてしまえば、行動も変えられると伝えたかったのかなと思うのですが。
自分を知る、ありのままの自分の認めてあげるそのうえで、行動を起こしていく、そうした考え方もすごく勉強になり、精神分野を目指すきっかけにもなったと思います。」

 

Q「最初に赴任された病院では初めから精神分野の担当をされていたんですか?」

山口さんインタビュー2「そうです。病床数も700近くある大きな病院でした。
老年期の方がいたり、毎日のように新患の方が来られたりと、規模が大きかったことで勉強になる部分というのもたくさんありましたが、患者さんとあまり深く関われないというのはありましたね。

ここに来たら150床で、4人の作業療法士がいるので担当を分けてという方法はすごく良いなと感じています。
患者さんと密に関わることが出来る、患者さんとの人間関係をより深く構築できるというのは、現在の良いところかなと思います。

私が入ってきた当初は、私を含めて2人の作業療法士という体制だったので、プログラムをこなすことだけでいっぱいいっぱいな部分もありましたが、今はだいぶ変われてきているのかなと感じています。」

 

Q「1日取材をさせていただく中で、雰囲気が学校の先生のようだなと感じたのですが?」

山口さんインタビュー3「『先生』と私たちのことを呼んで下さる方もいるんですが、私はそれを最初ずっと拒否していたんですよ(笑)。
先生と呼ばれると、患者さんとの間に上下関係が出来てしまう感じがして、先生じゃない立場でいたいという希望もあって。
患者さんと同じ位置で『なんでこれ出来ないんだろう?』『なんでイライラして爆発しちゃったんだろう?』『物にあたってしまったことがあったよね。どうしてだろう?』と一緒に考えて、一緒に進んで行ける人、それが作業療法士じゃないかなと私は思っています。

なかには患者さんが『山口さんはね、先生って呼ばれるのが嫌なんだよ。だから呼ばないようにしてあげるね。』と気を使って下さる患者さんもいますし、やまぐっちゃんと呼んで下さる方もいらしゃいます(笑)。
ただ、なるべく指導的になりたくない、上から押さえつけといったかたちにならないようにしたい。

よく、私たちは『主体的』という言葉を使うのですが、患者さん本人が『こうしないといけないよな』と思って行動するのを援助するのが作業療法士の仕事だなと思います。
なるべく患者さんが分かりやすい言葉で、分かりやすい方法でというところも大切だと思います。」

 

Q「精神分野の作業療法士のやりがいはどんなところですか?」

「シンプルに患者さんが良くなっていく様子が見られれば、ということがやりがいではありますが・・・。
入院時には無気力で、声をかけてもずっと自分の病室にこもっていた患者さんにどうしたら前向きになってもらえるかなと考えて、何度も病室に足を運んで話をして、徐々に活動的になっていって、退院後にデイケアで再会して、『あのとき話を聞いてもらえてよかった』と言っていただけるのがやっぱり喜び、やりがいになりますね。

もちろん元気にしている姿をみて、『あの時こんなだったのにね。』『もう、それは言わないでよ!』といった冗談を言ったりするのも良いんですけど、やっぱり『あのとき話を聞いてもらえて良かった』という一言は大きいですね。」

 

Q「作業療法士の仕事をしていて苦しかったことや、辛かったことは?」

山口さんインタビュー4「以前の職場で働いていた時のことですが、当時3年目か4年目ぐらい、入院されていたある患者さんを今後どうしていこうというカンファレンスがあったんです。
その患者さんは日常生活を過ごしていく中で、すごく寂しさを感じてしまい自殺未遂で入院された方だったと思います。

その方が退院することになり、退院するにあたって今後どういう生活をしていった方が良いかということを考える話し合いで、私はデイケアサービスのある施設や、包括支援センターや作業所といったようなところに通ったほうが良いんじゃないかな、行き場所を設けておいた方がいいんじゃないかと提案をしたんです。

しかし、まずは家に帰っての生活に慣れてから、1ヵ月とか経過して生活に慣れてから通うようにしてはどうかということで話が進んだんです。
私自身もまだ経験が浅かったこともあり、そうなのかなと思って言い切れずいたんですが・・・。
実際に退院してみたら、また自殺未遂ですぐに病院に戻ってきてしまったんです。
やっぱり『寂しかった』と本人も言っていて。

その時に、『しまったな。』と思って、やっぱり提案したように、どこか定期的に通うことも含めた生活のリズムを整えてもらう環境を勧めればよかったと思って。
実際、次に退院するときには、提案した内容にすることになり、本人さんからも『毎日とても楽しい。ありがとうございました。』と手紙をいただきました。
結果的に見れば良かったですが、もしあの時亡くなってしまっていたらということを考えると怖いですし・・・。

なので今は、患者さんを見ていくなかで感じたことはきちんと言うようにしています。」

 

Q「最後にこれから作業療法士を目指す方にメッセージをお願いします」

「色々なものに興味を持つことが大事かなと思います。

色々なものを吸収して、それを自分の強みにしていくように、色々な人の話を聞いたりだとか、そうすることが自分の経験になったりとか知識になったりとかにつながると思います。
もちろん勉強も大事ですよ。
ただ、キャンプをしてみたり旅行に行ってみたりだとか、全てが作業療法にはつながってきます。

もちろん出来ないことは教えてもらえば良いと思います。私も将棋や麻雀などは患者さんから教えてもらいましたし(笑)。
でも、自分が教えてもらおうと思わないことには始まらないので。

後は自分の特技を持つことですかね。
色んなものを楽しもうと思って取り組んでもらえたらと思います。」

 

山口さん退勤患者さんの心のうちを様々な角度から深く深く検証し、共に喜び、時には悲しみ、気持ちを共有することで患者さんの支えとなっていく。

抜群のリーダーシップを発揮して患者さんを引っ張っていったり、エールを送り続けることで奮起させたりというスタンスとは違う、暗がりに迷い込んでしまった時に次の道へ進むための温もりある明かりを灯してくれる。
精神分野の作業療法について私はそう感じた。

山口さん、1日ありがとうございました。

これからも患者さんの心に柔らかな光を照らし続ける、そんな作業療法士であり続けてください。